「月光」





月の光に照らされてぼんやりと浮かび上がる飛行船を見上げる。

黒い、闇に溶け込むような飛び崩れ落ちた飛行船の残骸。

ここは自分の家だった。

彼と自分で一から築き上げた。

それなりに名も売れ、この首を狙う人間も少なからず居た。

彼と共に歩んできた道はすべてが順調という訳ではなく、嵐もあれば凪もあった。

それ以上に、彼は、この飛行船の全てを握る男の動向が自分をいつも駆り立て、落胆させてきた。

好きだ。と囁く声も彼には通じず、罵ろうとも彼は顔色一つ変えなかった。

髪を乱す風の方がまだ彼に知られていたかもしれない。

自分が伝える言葉の一つも彼の心には刺さる事がなかった。

手にしていた片手刃、蒼の色をしたそれの光が妙に鈍く感じられる。

月に向けるように掲げて、その光の鋭さに口の端を上げた。

いっそ、この手で終わらせてしまえば良かった。

自分の命も

あの男の命も。

そして彼はため息をつく。

だらんと落ちた腕。

そのまま、跪くように崩れ落ちて、地面の上で声を殺して笑うだろう。

握り締めて、きつくきつく、血が滲むほどに握り締めて。

手の皮を破り、短剣の刃が突き刺さって、地面に赤い染みを残す。

そんな力が最初からあれば、彼は自分の言葉を聞いてくれただろう。

弱者の声は彼を掠める事さえない。

もっと強く、彼よりも。

彼を脅かすほどの力があれば、彼に信じてもらえるのだろうか。

愛してる。

愛していた。

聞こえていないとわかっている。

だけど、伝える事しか、自分には出来ないのだ。



見上げた三日月は、嘲笑うような角度で輝いていた。血が滴り落ちるような角度で。





END











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