ここ数日、バグの異常発生と共に発信源の不明な妨害電波が流されているとの連絡を受けた各界隈は警戒態勢を強めていた。
 それは、荒らし界隈でも例外では無かったが、今日の当番である偵察部隊はダラけきっていた。
 退屈なだけの見張りに飽き飽きし、どう時間を潰そうかボンヤリ考えていると、誰かが近づいてくる足音が聞こえてくる。それに、一応見張り台から顔を出した彼だったが、足音の主を見て目を疑った。
 「偵察、逃げろ!」
 全身に負った傷を庇いながら、上級厨房が叫ぶ。
 その背後から、直径2mはある巨大な鉄球を振り回したPCが襲いかかった。
 「上級!?」
 彼の姿にも驚いたが、襲いかかったPCの姿にさらに驚く。
 攻撃をガード出来ずに吹き飛んだ上級厨房を、見張り台から飛び出しなんとか受け止めたが、その傷は酷い有様だった。動けたことが不思議なぐらいの傷に、急いで背に背負う。
 その場から離脱しようとした偵察部隊の前に、鉄球を持ったPCが立ちふさがった。
 「……!」
 「待てよ、どこ行くつもりなんだ」
 そいつは俺の獲物だぜ?と笑う彼に、偵察部隊は唾を飲み込む。
 一人でも逃げれるかどうかギリギリの相手なのに、さらに手負いのコイツを抱えていては…、と背中の上級厨房を見れば、彼も同じことを考えていたのか視線がぶつかった。
 目線で置いていけ、という彼に、そんなことは出来ないだう、と顔を顰める。
 だが、このままここで睨みあっていても…、と考えていた時、遠くからPCの声が届いた。
 「一人で先走らないで下さい!」
 「あぁ、悪いな、デカいネズミを見つけたもんでね」
 「……っ!」
 彼らに片手を挙げて返事をするPCの一瞬の隙を付いて、偵察部隊は走り出す。
 懐から透き通っているガラス球を何十弾も取り出し、空中に打ち出した。
 「上級!」
 「分かってる」
 痛む身体を叱咤して、攻撃プログラムを転送させると光弾を放った。それは偵察部隊が打ち出したガラス球の真ん中で破裂すると光を乱反射させ辺りを一瞬にして、白一色に染め上げる。
 「ぬぉ…!」
 閃光弾よりも強烈な光に、その場に居たPCは全員目を瞑った。
 ようやく光が収まり、鉄球を持ったPCが再び目を開けた時には、すでに偵察部隊も上級厨房の姿もそこには無かった。
 「御堂岡さん!」
 勝手なことをしないで下さい!と近寄ってくるPCに、御堂岡と呼ばれた男は不機嫌な顔を向ける。その迫力に押されたのか、PCは急に勢いが無くなるとモゴモゴと小さく口内で何かを呟いた。
 「ふん…、逃げ足が速いだけで大したことはねぇな」
 所詮は雑魚か、と呟いた御堂岡だったが、手の甲に微かな痛みが走る。
 見れば、いつの間にか切り傷が走っていた。
 周りに目を凝らせば、少し離れた場所に透明のガラス球が転がっているのを発見する。
 「……期待できそうだな」
 それに、2人が逃げた方向を見ながら傷口に舌を這わせた御堂岡は、笑った。



Good luck on your travel
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#13.5 監視所