その部屋には、煙草の煙が立ち込めていた。
 数台のパソコンを操っていた男は、画面の一つに警告メッセージが出ているのに気が付いた。
 「なんだ?」
 詳細を知ろうとコンソールキーを叩く男の前に、情報が表示される。
 それに、男は眉を潜めた。
 「長光が、引き出されている……」
 かつて、あるPCの為だけに作り上げた特殊な攻撃プログラムが引き出され、他の誰かの手に渡っていたのだ。男は机に肘を立てると、顔の前で手を交差させる。
 「どういうことだ」
 そのプログラムには幾重にもプロテクトをかけていたのだから、そう簡単に破られるはずがない。
 現に、強硬手段であるハッキングを受けた形跡は無いのだから、誰かが正規の手順に乗っ取って持ち出したのだろう、と考える。
 「だが、それは……」
 脳裏に過ぎ去った人物に、男は目を瞑った。
 正規の手順を知っているのは、自分ともう一人だけ居る。
 しかし、その人物が既に姿を消してから何年も経っており、今更とは考えにくい状況だった。
 「なにか、一騒動起こっているようだな」
 もう、あの界隈には戻らないと決めたんだけどな、と気だるそうに呟くが、その言葉に反して口元には楽しそうな笑みが浮かんでいる。
 加えていた煙草を灰皿に押し付けた男は、数年間眠らせたままだったPCを起動させた。



Good luck on your travel
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#14.5 real world