私室の机に置いていたランプが点灯する。 それに、サイトに誰かが来たことを知ったあじは部屋を後にした。 「……君は…」 「すまないが、アンタの力を貸して貰いたいんだ」 彼の前に真剣な表情をして立っていたPCは、リオカだった。 「随分久しぶりだけど…、何の用かな」 ソファに座ったあじは彼にもどうぞ、と勧める。 だが、リオカはそれを断るとおもむろに床に膝を落とし手を付き、頭を下げた。 「え、ちょっとどうしたの」 突然の土下座に驚いたあじはソファから立ち上がったが、彼の口から出た言葉に眉を顰めた。 「荒らし界隈の彼らを、助けて貰いたいんだ」 「それは…、出張しろっていうことかな」 「頼む」 「……悪いけど、断るよ」 冷たく言われた拒絶の言葉をリオカは予想していたのか、さらに言葉を続ける。 「お前さんが特定の界隈との繋がりを持つことを嫌っているのは知っているが、そこをどうか頼む」 「しつこいね、そこまで分かってるなら受ける訳がないだろう?」 これ以上話すことは無いよ、とリオカを置いてあじは私室に戻ろうとするが、彼の言葉に歩みを止めた。 「昔、世話になった界隈なのに見捨てるつもりなのか」 「……リオカ君…?」 「俺らは、あいつらの先輩として守ってやらなくちゃいけないんじゃないのか」 彼が決して言わないはずであろう内容に、あじは驚く。 土下座していたリオカは立ち上がると、どことなく寂しそうに笑いながら、言った。 「俺は、あいつらと界隈を終わらせたくないんだ」 「なら、自分で行けばいいじゃないの」 「ところが、そうも行かなくてね」 やはり拒絶するあじに、リオカは他にやらなきゃいけないことがあるんだ、と険しい顔をして言う。 その言葉に込められた凄まじいまでの気迫に、あじの背に寒気が走った。 「リオカ君……」 その気迫が遥か昔、彼の前身が纏っていたモノと同じだということに気が付き、目を見開く。 「アイツの為なら、今まで疎んでいたこの力も思い切り使えそうな気がする」 ぐっと拳を握りしめたリオカは、視線を上向けた。 あじは信じられない、とばかりに首を振る。 「まさか君は、リオカとしてじゃなくて、アリスとして…!?」 あれだけ自分と彼を同一視されるのを拒絶していたのに…、と変化に驚くあじを尻目に、彼は今の俺の名前はリオカだ、とだけ言うと踵を返した。 「とにかく、頼んだ」 「あ…、ちょっと待って…!」 私は行くなんて一言も言ってないよ!とあじはリオカの後を追いかけたが、彼は素早く転送ゲートに他のサイトのアドレスを打ち込むと、あじのひらきから転送されていった。 「……私に、どうしろっていうのさ」 残されたあじは、呆然と呟いた。 何があったって行かないからね、と誰も居ない空間に向けて大声で宣言して私室に戻る。 だが、しばらく頭を抱えて唸っていたかと思うと、彼は机の脇にあったカバンを手に取り立ち上がった。 Good luck on your travel |