「胡蝶」





「お腹痛い・・・。」
「・・・あれだけ食べれば、当然でしょう。」
家に帰り付くなり、いきなりベットに倒れ伏したあじ。
そんな彼を見てStormはそうなって当たり前だ。と言わんばかりの顔付きになる。
「心配してくれ無いのね。」
マクラに埋めた顔を上げて、あじはつまらなさそうな声で言う。
一旦起きあがらせた身体を再度横たわらせて、マクラを抱くとあじは背中を丸めてベットの上をゴロゴロと転がった。
「・・・いたっ。」
元々そう広くはないベットだったから、転がっている内にすぐに端まで来てしまう。
だが、勢いの止まらなかったあじはベットから転がり落ちて尻餅を付いた。
「・・・先にお風呂入りますよ。」
そんなあじの様子にStormは呆れたのか、くるっときびす。
そして部屋に備え付けられているバスルームの方へ歩いていこうとした。が。
「あ、口内炎出来てる・・・。」
誰かに話かけるという訳ではなく、無意識の内に呟いたのであろうあじの小さな声。
それを聞き付けてStormは歩き出しかけた足をピタリと止めた。
ゆっくりと振り返ったStormの目に、胡座をかいたまま、未だベットの脇に腰を下ろしているあじの姿が写った。
出来た口内炎を舌で探っているのか、口をモゴモゴと動かしている。
その様子を見てStormは何かを思いついたのか、ふっと口元を緩ませた。
「大丈夫ですか?」
「・・・ん。まぁ、2〜3日すれば自然に治ると思うけど。」
相変わらず口を動かしながらあじは答える。
が、口の中に出来たそれに気を取られていたのか、Stormが自分の方へ近づいて来たのに気が付いていなかった。
「・・・私が治してあげましょうか。」
「・・・はぃ?」
何処となく不穏な空気と共に、そんな言葉が上から降ってきて、あじは慌てて立ち上がろうとした。
が、既に時遅し。
前かがみになったのか、Stormの顔が随分と自分の近くにあるなとあじが思った時には既に肩を掴まれていて。
立ち上がろうとした身体を押さえつけられたかと思うと、唇を塞がれた。
「・・・・っ!?」
頭を後ろに反らし髪を掴んで、舌が動きやすい形に顔を固定する。
と、いきなりの事で対処しきれなかったあじの隙を突いて、Stormは自分の舌を彼の口内へと滑り込ませた。
「ふ・・・っ。」
自分のとは違う別の意志によって動かされる舌が内壁に触れ、何度もそこを執拗に擦り上げる。
その舌の動くざらっとした感触にあじの腰の辺りに鈍い疼きが走る。
相当な長い時間が経過したあと、ようやくStormは今まで良いように蹂躙していたあじの口内から舌を抜いた。
「・・・・な、何す・・・。」
顔を真っ赤にして、しどろもどろの言葉を紡ぐあじにStormは当り前のような顔をして答える。
「こうすると、口内炎の治りが早いらしいですよ。」
「・・・アホかぁ!」
常識では考えられない事を平気で言うStormと、良いように弄ばれてしまった自分に対して腹が立つやら泣きたくなるやらで。
そんな気持ちを払拭するかのように、あじはStormに特大のパンチを見舞おうと腕を振り上げた。
が、Stormは別段驚きもせずにその振り上げられた腕の手首を掴む。
と、いきなりStormはあじの身体を引っ張り上げる。
そしてそのまま、ついさっきまであじが転がっていたベットの上へとその身体を放り投げた。
「・・・さて、続きでも?」
と、放り投げたあじの身体を自分の方へと引き寄せて、Stormは低く囁く。
その声にあじは一瞬身を竦ませた。
が、すぐに自分を取り戻すと、心で吹き荒れている怒りの嵐に任せて拳を思い切り突き出した。
「あんたは風呂入って頭から水でもかぶって来なさい!!」
至近距離から打ち出された拳を避けられるはずも無く、それは見事にみぞおちに命中する。
一瞬その痛みに白目を剥いて、Stormはベットからひっくり返り落ちた。
が、Stormはすぐさまベットに手をかけて起き上がってくる。
そして、まだ荒い息のままでこちらを睨みつけているあじを彼はじっと見る。
「あじさん。」
「・・・何ですか。」
何かを確かめるかのように、Stormはゆっくりと口を開いて彼の名前を呼ぶ。
名前を呼ばれた上にまじまじと見つめられ、バツが悪くなったのかあじは目を逸らす。
が、Stormの口から発せられた言葉にあじは一瞬自分の意識が彼方へと飛んで行ったのが分かった。
「・・・風呂に入ってからならいいですか?」
・・・もちろんあじはStormにトドメの一撃を見舞ってやった。





END


















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