「鎮魂歌」 気が付けば此処に来ている事が多くなっていた。 草木も眠る丑三つ時。 ネットワークにログインした後、人目を避ける為に直通で此処に来て、何をするでもなくぼんやりと目の前に広がる光景を見る。 強者どもの夢の跡、というに相応しい崩壊した城から吐き出された瓦礫の山を。 「・・・いつ来てみても、変わらないか。」 そう呟いて暗黒元帥は転送されてきた場所から一歩足を前へと踏み出した。 ジャリッという鈍い音が彼の足の下で放たれる。 足場が悪いのも無視してさらに暗黒元帥は5.6歩先へ歩くと半ば虚ろな面持ちで辺りを見回した。 彼が直通転送先に選んだのはhttp://kupo.ug.to/。 今でこそそこは瓦礫の荒野と化しているがかつてはちゃんとしたサイトがあった。 そのサイトの名前は「荒らし幕府」。 立派な作りをした日本風の城がそこには建てられていて、日夜、大勢の人物が訪れていた場所であった。 ・・・今はもう、その面影など一片の欠片も残ってはいないが。 「・・・・・・。」 いつ見ても変わらない目の前に広がる瓦礫の荒野に暗黒元帥はそっと目を伏せた。 将軍が健在だった時にはあれ程多く居た幕臣達も城が崩壊した今はどこかへ散り散りになってしまった。 恐らく、城が崩壊してからは自分しか此処には来ていないのだろう。 眼下に広がる荒野に何の変化も無い事がそれを物語っているように思えた。 「・・・相当将軍を慕っていた幕臣も居たというのにな。」 所詮はそんなものなのか・・・。と、暗黒元帥の心に暗い影が落ちる。 知らず知らずの内に暗い意志が彼の心に滑り込んでいて、こう耳元で囁いた。 自分はあいつとは違うつもりだが、それでも自分が居なくなった時には同じ事になるのだろう。と。 「・・・馬鹿な。」 そんな事を考えてしまった自分を否定するかのように暗黒元帥は自嘲気味に笑みを作って無理矢理笑う。 だが、無理矢理の笑みがそう長く続くはずもなく彼は掠れた声で呟いた。 「・・・そんな馬鹿な事が・・・。」 伏せていた目を上げてみれば、目の前にはかつての幕府の城が変わらず聳え立っているような気がして。 だが、目を開けないでいても、まぶたの裏には城壁が白く燦然と輝く幕府の姿が蘇る。 「亡霊めが・・・っ。」 暗黒元帥は唇を強く噛んで歯軋りをすると意を決したようにパッと目を開いて目の前を睨んだ。 もちろん、そこには彼が思い描いたような物は全く無くて。 ただの瓦礫の山が延々と続いているだけであった。 「・・・過去の亡霊が・・・。」 何も無かった事に安心したのか、暗黒元帥はやや弱々しく声を吐き出すと心持ち顔を上に向け何かを口ずさみ始めた。 静かで、暗く・・・それでいてどこか神秘的な雰囲気が漂う歌を。 と、風が、微かに動いたような気がした。 「・・・何て曲なんですか。それは。」 「・・・!?」 突然声をかけられた事に驚いて後ろを振り返ってみればそこに立っていたのはスラリとした長身の男であった。 僅かに微笑しつつ、その男は不思議そうに首を傾げてみせる。 「・・・k・・・3。」 自分以外に誰もいないと思っていた此処に人が居る事自体にも驚いたが、目の前の人物がk3だという事実に暗黒元帥は驚きを隠せなかった。 「元帥殿。どうして貴方がこんな所にいらっしゃるのですか?」 自分の方に向き直ったまま固まっている暗黒元帥を不振に思ったのだろうか。 k3はひらひらと彼の目の前で手を振ってみる。 と、それで正気が戻ったのか、暗黒元帥は小さく一つ身震いすると、普段見せている顔に戻りk3を見やった。 「・・・k3殿こそ、こんな所で何を?」 k3の質問には答えずにあからさま意地の悪い口調で暗黒元帥は問い返す。 そんな彼の様子にk3は困ったのか、ぶつかり合っていた目線を逸らし、ふっと空へと目を向けた。 「僕ですか・・・。そうですね、墓参り。とか、そんな感じじゃないでしょうか。」 空は星一つない漆黒の色をしていて。 思わずこのまま吸い込まれてしまうのではないか。とゾッとさせるような雰囲気があった。 「・・・墓、参り?」 k3の答えを不思議がったのか、暗黒元帥が繰り返す。 「えぇ、クポッ!さんの。」 「・・・。」 繰り返した言葉に事も無げに返したk3に、暗黒元帥は返答するべき言葉を見失う。 と、彼が一瞬の隙を見せたその瞬間k3は見逃さず、先程を同じ質問を暗黒元帥に投げかけた。 「それで、元帥殿はこちらで何を?」 「・・・それは・・・。」 一瞬の隙に付け込まれ、ぶつけられたその質問の答えを見つける事が出来ずに彼は口篭った。 別に『ただ、何となく来てみた。』といった類の回答でも十分であったはずなのに、今の暗黒元帥にはそれすらも考え付く事が出来なかった。 「・・・えっと・・・。」 口を噤んだまま微動だにしない暗黒元帥に再度困ったのかk3が頭に手をやる。 「あー・・・、じゃあ、その。さっき歌っていた曲、なんていうんですか?」 このまま待っていても彼は口を開く事はしないだろう。とk3は踏んでか質問を変えて再度話しかける。 話の矛先が変わった事に安堵したのか、暗黒元帥は僅かに顔を緩ませた。 「・・・さっきのは・・・。いや、よそう。」 が、その質問に答える事にも躊躇いがあるのか、彼は一度は開きかけた口を再び閉じてしまった。 しかしk3もの方も、もう質問の内容を変えようとは思っていないのか、根気強く暗黒元帥が口を開くのをじっと待っている。 二人の男の間に沈黙の独特な空間が作り上げられる。 が、やがて暗黒元帥は、k3のその様子に答えを返さないでいても埒が明かないと諦めたのかゆっくりと口を開いてある言葉を呟いた。 「・・・・・・鎮魂歌。」 「・・・レクイエム、ですか?」 彼の口からようやく出てきた質問の答えにk3は不思議そうな顔をした。 「・・・・・・・かつて、此処に住んでいた男に・・・送る鎮魂歌だ。」 付け足しの様に暗黒元帥は僅かに聞き取れるかどうかの音量でそう呟いた。 だが、k3はというとその言葉に対してますます不思議そうな顔付きをする。 「それって・・・クポッ!さんですか?」 「違う。」 k3の質問に暗黒元帥は即答すると荒れ果てた瓦礫の山へと視線を向ける。 「いや。・・・・・違わない・・・かも知れない。」 「・・・。」 一度は否定した事を訂正した暗黒元帥の顔をk3はちらりと横目で見る。 ぼんやりとかつての城に跡地に目を向けている彼の顔には、そうした事に対して後悔しているかのような表情が浮かんでいて。 「・・・・もしかして・・・後悔、してます?」 思わずk3は後先の事を考えずにそう声をかけていた。 と、次の瞬間驚いたように振り返った暗黒元帥の顔には酷く戸惑っているような表情が刻み込まれていて。 それを見てk3はしまった。と思ったが今更言った言葉を訂正する訳にもいかずに口を噤んだ。 二人の間を再度、ひんやりとした冷たい夜の風が通り抜けていく。 「・・・さぁ、どうだろう・・・。」 口を瞑ったきり開こうとしないk3に変わり、暗黒元帥がポツリと呟いた。 「だが、もし後悔していないとしたら。」 視線を下に落とし、暗黒元帥は俯き加減に言う。 「・・・・こんな事はしないだろうな。」 そういって自嘲的な笑みを浮かべると暗黒元帥は言葉を切った。 「・・・・。」 その言葉を聞いてk3はちらと暗黒元帥の顔を見る。 が、彼の頬に僅かな夜の明かりに反射して、光の筋が流れているのに気が付いて再び目を逸らした。 「・・・あの・・・。」 何かを言いかけ、口を閉じて。 そしてまたk3は口を開いて暗黒元帥に声をかけた。 「・・・僕でよければ・・・・、その。聞きますけど。」 そっと手を伸ばして彼の肩にk3は触れようとする。 k3の言葉と動作に暗黒元帥は驚いたような顔をしたが、伸ばされる手を拒むように首を僅かに振ると一歩後ろへと後ずさった。 「大丈夫ですよ。私はそこまで弱くはありませんから。」 そう言ってにっこりと笑ってみせる。 と、彼の周囲から青白い光の筋が出始める。 どこか別の所へと転送される合図である。 「・・・k3殿。どうか今日の事は内密に。」 光の中から暗黒元帥が言葉を放つ。 「・・・えぇ。」 その言葉を受けたk3は判っていますよ。と強く頷いて見せた。 彼の動作を見て安心したのか、暗黒元帥はふと思い出したように次の事をk3に問いた。 「k3殿以外にも此処に来ている人は居るのですか?」と。 質問の内容の意外性に驚いたのか、k3は一瞬目を丸くしたがすぐに記憶の片隅を探り答えを返す。 「えっと確か、水無瀬さんやStormさんとかが良く来ているはずですけど・・・。」 「そう、ですか。・・・この世界もそう捨てたものじゃないですね。」 「・・・え? 今なんと・・・?」 小さめに呟かれた言葉を聞き取れなかったのかk3が今なんと言ったのか。と聞き返す。 「・・・この世界も捨てたものじゃない。と言ったのですよ。」 と、暗黒元帥がそう言った直後、溢れんばかりの光に包まれて彼は別の場所へと転送されていた。 「・・・・暗黒元帥殿・・・?」 その言葉の意味を計りかねてなのか、k3が不思議そうな声で既に目の前にいない人物の名前を呼ぶ。 最後の言葉を聞き取ることは出来たが、彼がどんな表情で言っていたのかを光のせいで見る事が出来なかったからだ。 「・・・この世界も捨てたものじゃない・・・。ですか?」 暗黒元帥が最後に残した言葉を反芻してみる。 何に対してそう言ったのだろうか。とk3はぼんやりと考えてみる。 自分や水無瀬といった人間が廃墟と化した此処を懐かしんで良く訪れている事に対してなのか。 それとも、何か別な事に対してなのか。 もし前者の意味で暗黒元帥が言ったとするならば、彼は未だにクポッ!将軍を慕う者が居た事を歓迎した。という事になる。 そこまで考えてk3は肩を竦めると苦笑してみせた。 「・・・・・・まさかね。元帥殿に限ってそれは・・・。」 馬鹿な事を考えてしまった自分自身に彼はふぅっとため息を付いた。 「・・・もう、帰りますか。夜も明けますし。」 と、彼の身体も青白い光に包まれる。 「またお会いしましょう。将軍。」 水平線をみやってそう呟いて、k3も荒らし幕府があった跡地から別のサイトへと転送されていった。 誰もいなくなった荒野の空は相変わらず暗闇に包まれていたが、水平線ギリギリの所で一つだけ。 青白い星が辺りを明るく照らしながら輝いていた。 END |
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