「星夜」 見張りの夜はなぜかいつもより寒く感じられた。 空に伸ばした見張り台の上で、近づいた月を見ていた。 その周りに散る星を見ていた。 時折、流れ星がこぼれて、それを掬いたくて手を伸ばした。 k3は見張りが嫌いではなかった。 冷え切った体に毛布を巻きつけ、時には震えながら遠くに見える人影に神経を集中させなければならない。 それがただの照り返しだった、なんて事も珍しくない…。 それでもk3は退屈はしなかった。 ネットの各地を放浪していたk3は、よく地面に寝そべって星座を見上げたものだった。 教えてくれる人がいたから、星座には詳しくなったし、今もそれは忘れない。 星座の話なら彼にも負けないと思った。 「随分と高尚な趣味だな。」 星が好きだと言った時、aaa.comはそう嘲笑って髪を撫で上げた。 k3は彼のベッドに腰掛けて笑う。 aaa.comが差し出してくれる酒を受け取って。 機嫌がいい証拠だ。それがわかっているから笑う。 「あなたにも負けないと思いますよ、星座に関しては。」 「実に意外な趣味だ。」 「ほら、でも僕、結構ロマンティストじゃないですか?」 「言ってろ、バカが。」 隣に腰を下ろし、aaa.comは顔を顰めて一気に酒を呷る。 k3も肩を竦めて、上等な酒を口に運んだ。 死んだ人が星になると彼から聞いた時、自分の焦がれていた人もそこにいるような気がした。 物心付く前に死んだ人は星となって燃えていくのだと聞かされて、星の輝きが切なく見えたのを思い出した。 時代は流れていく。 いつしか自分も死んで星になるのだろうか。 その時、誰か知っていてくれるだろうか。 自分が何を思い、生きたか。 誰を愛して、生きたのか。 誰かが覚えていて、伝えてくれるだろうか。 「下らん。」 「・・・そう言うと思いました。」 「じゃあ言うな。」 夢物語だと言われようと、感傷的だと言われようと。 伝えて欲しいと思う。 あの夜空のどこかで咲く自分が、こんなにもこの人を愛していたと。 「…俺はあの空にはいないな。」 aaa.comがそう呟いてグラスを置いた。 どこか悲しそうに目を細めて。 金色の、星のような目を細めて。 「お前が見上げる空の星座には、俺はならない。」 「・・・そう、ですか。」 「・・・どこより広い世界なんだろう? だったら俺は、どこか遠くから星座を眺めて彷徨うさ…。そうでなきゃ、闇でいい。」 「・・・そうですね。」 k3は窓から空を見上げた。 闇に抱かれる星達が羨ましいと思う。 確かにそうだ。 彼が1つの星になるなら、誰の目にも見えない場所で光っているのがいいと思う。 自分だけが見つければいいと。 他の誰かが彼の命に名前をつけたり、物語を描くのは許せないから。 「でも、あんまり俺から遠くに行かないで下さいね。・・・aaa.comさん・・・」 「さあどうだろう・・・。」 「探しますよ。」 「勝手にしろ・・・。」 唇が触れた。遠い未来より、今、側にいて、この腕に抱ける事が大切だった。 END |
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