■「全ての罪を許す者」 世界中の誰もが貴方を間違ってると批難しても 私だけは絶対に味方だから。 例え、貴方と敵対したとしても。 それだけは変わらない。 変えられない。 夢を見ていた。 深い眠りではなかったが、すでに夢の断片しか思い出せない。 記憶を処理する為に見た夢だった。 そんな気がする。 もっと他に覚えておかなければならない事がある。 だから忘れる為に見た夢だった。 ふいに脳裏を掠めた、冷徹な男の顔。 社会へと出て行った、自分の右腕。 彼は今は暗いこの世界を飛び出し、光の当たる場所で生きている。 UGに関する古書を漁り、該当するWebのページを眺める。 狭い回線によって繋がれている島々は容易に行き交う事が出来ず、それぞれ孤立し、独自の文明を生み出して生きている。 それが変わらないという事なのだろうか。 何ものにも関わらず、全ての接触を絶てば変わる事はない。 では、あの男の変わらないは何だったのだろう。 夢を見た。 表と裏の狭間に身を隠してから、何度も何度も。 覚えている必要がなかったから、忘れる為に何度も夢を見た。 それなのに、まだ忘れていない。 それはとても大事な事だった。 少なくとも俺にとっては。 だったらなおのこと、忘れなければならなかった。 それなのに・・・。 UGから足を洗ったあと、社会に復帰した黒死病の話を聞いて会いに行った。 そこには恨みも何もなかった。 ただ、その社会と黒死病。二つの取り合わせが面白かったから、自分の目で見てみようと思った。 あの男はどこにいても異質で、自分の仲間の中でも一際目を引いた。 どこにも馴染めないのだと自分でも言っていた。 それはそうだと思った。 自己主張の激しい男だ。 だが、自分の横にいる時は大人しくなっても見せた。 「貴方の横は気兼ねしないし、居心地いいから。私も大人しく出来る。」 サングラス越しの目が楽しそうに笑っていた。 信じてはいなかったが、何となく、それは嘘じゃないとわかっていた。 「私は貴方の味方です。」 いつだったか、そんな事を言い出した事がある。 いつもなら聞き流した。それなのにその時は、なぜか構ってやってしまった。 「ずっと私だけは貴方を裏切らない。」 「何を根拠に・・・、嘘は良くない。」 「そっちこそ何を。私はちゃんとわかってます。」 「何。」 「私は貴方の味方なんです、ずっとね。」 「ずっと?」 「えぇ、ずっと。」 「それはいつまで?」 「それは、わかりません。私はあんまり頭はよくありませんから。でも、ずっとはずっと。貴方が信じられないくらい、ずっと・・・。」 「・・・お前は裏切らない?」 「はい。」 「・・・なるほど。」 意地悪く藍色の目を細めて笑った。 黒死病は椅子に腰を下ろして、目の前の綺麗な人が楽しそうに笑っているのをただ見ていた。 「なら、私がお前を裏切ってあげよう。」 「・・・貴方は、どうしてそんなに楽しそうに笑うんですか。意地が悪いですよ、まったく。」 「お互い様だと思う。」 「私は正直者ですよ?」 「ああ、そうだった。わかったわかった。」 「信じてないですね。貴方は・・・。」 「そんな事でムキになるな。」 「やっぱり判ってない。私は他の誰に何言われても、あなたにだけは判っててもらわないと困るんですよ。」 「何?」 「だってそうでしょ?」 貴方がわかってくれなければ、味方でいても意味がない。 「貴方が望まなければ私は何も出来ません。」 無邪気に笑っていた。 信じていない素振りで、鼻で笑ってやった。 傷ついたようは顔をして、それからいつものように笑って腕を伸ばしてきた。 左手の薬指に口付け、そこに軽く歯を立てる。思わず体が竦んだ。 「・・・どうやったら信じてもらえますかね・・・」 「・・・。」 答えられなかった。信じた事がなかったから。信じるものもなかった。 「私は、考えるのは苦手だけど・・・。いつかきっと見つけます。」 「・・・それで、貴方に信じてもらうんです。」 私は貴方の味方だ。 ずっと。 社会人になった黒死病に会った。 こっちはもう何十年も会っていなかったような気がしたのに。彼は昨日も会ったような顔で笑っていた。 「お元気そうでなによりです、将軍。」 「・・・お前も相変わらず。」 「なにをしに此処へ? ここは貴方の嫌いな表の世界です。」 「・・・お前の様子を探りに、ね。」 「・・・貴方が正直に答えるとは思いませんでした。どうかしましたか?」 「黒死病。」 「はい?」 黒死病の言葉を遮り、暗闇にの中から金色の目だけ覗かせて呟いた。 「お前は・・・」 お前は、私の味方か否か? 今も。 黒死病は少し驚いたような顔をしたが、少し笑って、それからしっかり頷いた。 「勿論ですとも、将軍。」 私は貴方の味方です。 今も。 それだけ聞ければ十分だった。 ネットの闇の中に消える。 黒死病はしばらくそこに立ち尽くしていた。 完全に気配は消えていたが、それでもまだ立っていた。それは彼も知っていた。 「・・・信じられなくなったらまた来てください、将軍。」 私は貴方の味方だ。 誰が貴方を許さなくても。 私だけは貴方を許して、味方でいるから。 私だけはずっと貴方の味方だ。 私だけは、貴方の全てを許して、認めて・・・ 愛してる。 世界の狭間に戻り、そして小さく笑みを溢した。 「・・・わかってる・・・。わかってるさ。」 その言葉が嘘ではないと ・・・信じている。 END |
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